トヨタ国内販売への提案

国内販売立て直しのための提案

2007年9月

                    

近藤勉啓 桑原利行 

          

はじめに

国内販売の停滞が続いております 

この状況をなんとか打開できればと考え 一社員として提案をさせていただきます

喫緊の課題は需要の創出です

若者のクルマ離れ 女性ドライバーの増加などお客様の変化や 高齢化 所得の二極化といった社会構造の変化など多くの要因が複雑に絡みあい 従来の延長線上では対応策を見つけられそうもありません 

商品や販売のブレイクスルーが求められています

自動車単体を超えてクルマ社会の枠組みにまで視野を広げる必要があると思います 

 もうひとつの提案は営業の業務革新です 国内営業がマザー市場としての役割を担えるようになるための人材育成が目的です そのための仕組みづくりです

営業の仕事は 開発や製造とは違って 仕事の成果が見えにくいという難しさがあります 広告効果ひとつとってみても成果にどう貢献したか評価が困難です また ともすれば人情と根性あるいは人間関係に依存しがちです 仕事の評価が困難なためです 

どのような施策がお客様の心に届き 営業成果に寄与したかを評価する仕組みが必要です ITや脳科学の急速な進歩により実現可能性が見えて参りました 本格的な検討を進めるべき時が訪れました 是非 推進のための組織と体制をおつくりいただき このテーマに邁進させていただけますよう お願い申し上げます  

1 クルマ社会の枠組みを見直す

1.1 情報ネットワークでクルマの魅力を蘇生

クルマの大きな魅力は走る喜び 操る楽しさです

しかし 街にはクルマが溢れ渋滞が常態化しています 以前のような楽しさ 便利さが大幅に減ってしまいました クルマの基本的な魅力の蘇生が必要です

セダン離れの底流には渋滞時の不快感があると考えられます 渋滞に巻き込まれた時 低い着座位置では圧迫感があり 長時間置かれるとストレスが蓄積します MPVやSUVが好まれるのは高い位置に目線があって渋滞時でも開放感が保たれることが要因になっているように思われてなりません

モータリゼーション黎明期にトヨタは 修理網整備のほか整備士の養成 自動車学校の設立など自動車単体を超え クルマ社会の枠組みにまで心を配りました 

ドライブの楽しさの復活には 自動車だけではなく ネットワークとしてのクルマを考える必要があります  

渋滞解消が究極目標ですが 先ずは精度の高い渋滞情報により 楽しさあふれるドライブルートを提案できたら如何でしょうか 渋滞のないドライブルートを案内できればドライブの楽しさが復活し 新たな自動車需要開拓につながります 

渋滞に関して緊急自動車の場合は深刻です

渋滞のために病院や火災現場に到着するのが遅くなって尊い人命にまで影響が及んでいます 

G−BOOKは素晴らしい進歩を遂げ 最新バージョンではプローブコミュニケーションシステム(以下 プローブ)により渋滞情報の画期的な精度向上が可能となりました プローブによる渋滞情報の信頼度向上には 何よりも道路を走る搭載車両の台数が決め手になります 他社にもありますが 低い道路カバー率 時間ごとの変化を把握しきれないなど十分な情報提供には限界があります 搭載車両数が少なく絶対的な情報量が不足しているからです 台数の多いトヨタこそ大きな貢献ができます 

精度向上のためには 日常走行距離の長いタクシーなど営業車 配送車への搭載も必要です 台数は限られていても幅広い範囲をくまなく頻繁に走行しているので 脇道情報や 道路工事あるいは交通事故など一時的な渋滞要因についても情報収集が可能です

 この情報により 多くの車両が特定のドライブルートに集中して二次的な渋滞を惹き起こす懸念があります 予め対応策を準備しておく必要があります  

初期費用の軽減や通信費の優遇などの支援に加え 国や地方自治体の協力を求めることも必要になります 当初はトヨタならではの強みとしてトヨタ車拡販に役立てることが可能ですが 自工会への働きかけなどを通じ業界全体での推進が望まれます

 長期的には 渋滞の緩和のために 全長の短い車両開発(たとえばiQコンセプト)を進める必要があります 渋滞の長さを短くするのが目的です

1 クルマ社会の枠組みを見直す

1.2 ビジネスモデルの見直し

「いつかはクラウン」で象徴されるように 自動車はお客様の上級志向を前提として商品の企画がなされてきました しかし 道具として割り切るお客様の増加などにより商品そのものの魅力のあり方や商品体系の見直しを求められています 特に女性のお客様を考えるには従来とは異なるビジネスモデルが必要です

・「足し算商品」と「引き算商品」

商品購入の際 どんどん予算が膨らんでしまう買い物と 反対に節約モードに入る買い物があります

男性の場合のクルマやパソコン 女性の場合のハンドバッグやシステムキッチンなどが「足し算商品」で 反対に男性の場合のバッグ 女性の場合のクルマやパソコンが「引き算商品」と言えます

クルマは男性向け足し算商品としてのアプローチだけにとどまっていました その結果 現在のような商品体系や売り方になっていると考えられます

女性向け足し算商品としてのクルマは五感に訴えるクルマであることが最低条件です 商品との関係性では「自分が」がキーワードになります 自動車のスペックなどには関心がないようです 自分が美しく見えるクルマ 美容や痩身に良く自分が美しくなれるクルマ が求められます クルマの性能としては お肌の保湿性能やUV性能 あるいは清潔性能など新たな商品魅力軸をつくり その性能を高める必要があります

美しくなるために お化粧直しやUV制御のための調光ガラスや保湿のためのミスト機能も検討しなくてはなりません 美容家電器具用のコンセントも必要です

エアコンには除菌と消臭機能が必須となります

売店で乗ってみて 綺麗にみえるかどうか確認できるよう クルマの姿見鏡などや照明の工夫が必須です

女性にとっては引き算商品でしかない現行商品については新たな商品体系を検討する必要があります 

トヨタおすすめの基本モデルから お客様にとって不必要な仕様をはずしていくというような引き算のグレード体系として再編成を検討することです

・「複数保有&複数運転者向け商品」

 一家で複数のクルマを所有し 家族で使い分ける というような使い方が増えております

キーというものは自動車に付いていますが これを運転者に帰属するようにしたら大変便利になります 

自分のキーひとつで全てのクルマを運転できます

またドライビングポジションはもちろん オーディオやエアコンあるいはカーナビについても個人設定ができたら利便性は更に高まります 乗り込む前にクルマに近づいて開錠するだけで自分の設定になっているというわけです 一家でたくさんのトヨタ車を持つことが お客様にとって大きなメリットになります

 携帯抜きには考えられない若者向けには 携帯電話とキーの一体化ができれば更に利便性は増します 「出かける時はこれひとつ」という世界になります 

1 クルマ社会の枠組みを見直す

1.3 次世代エコ

先年の新潟地震の折り 民法テレビ局の現地取材で

実際に起こったことです NHKのような電源車が無いため 停電中の現地でカメラ取材ができず困っていました ところが数台の取材車のなかにエスティマハイブリッドが有り そのコンセントにテレビカメラ等を接続したら取材が可能になったということです

それだけでなく 冷蔵庫が止まっていたり洗濯機が動かなくなったりで困り果てている現地被災者の方々もその電源を使い急場を凌ぐことができたそうです

東海大地震東南海地震が予測されています 最近も中越地震など地震が頻発しています

現代生活には電気が欠かせないものとなっています 食料の確保 衛生面を考えても 緊急時にマイカーから電力がとれることは強い威力を発揮します

ハイブリッドカーだけでなく 通常のガソリン車などでも電源系の見直しにより対応可能です

・「電力ネットワークとしてのクルマ」

 エネルギー源としての自動車です 将来 家庭用燃料電池も停止時の燃料電池自動車もプラグアウトしてウエブ型ネットワークにつなげます コンピュータネットワークが分散型からウエブ型に転換したように 電力ネットワークもウエブ型になれば 石油や原子力など環境負荷の大きな大規模発電施設を削減できます

次世代エコへのブレイクスルーです

2 商品と販売のブレイクスルー

2.1 若者にも手が届く夢の商品へ

若者のクルマ離れについて 経済的な面では携帯料金の負担が大きく影響しています 家計の固定費だった電話代が個人の固定費になってしまったからです 

かつてクルマは憧れの商品でした 少し無理をすれば高級車も手が届く存在でしたが 今や届かない夢になってしまっています 高級ブランド志向が広がっていますので中途半端なブランドでは満足できなくなっているという側面もあります 高級時計に関心が向かっているのも高級車に手が届かなくなったことが影響していると思われます 先ずは買い求めやすい仕組みを構築する必要があります

携帯電話費用とクルマ費用を合わせて一定額として その上で楽しい生活ができる仕組みであれば 成熟経済社会の中で 若者に健全な生活を提案できます

支払い一体化による総合割引制度が有効ではないでしょうか ポイント制度の相互利用も必要です 

残価型割賦が有効なツールになりますが 本格展開には大きなリスクを伴います 担保車両にGPSをつけて追跡しやすくするなどリスクヘッジ策が必須です

乗りたいクルマの中で使いたい時だけ使えるような会員制共同利用システムがあれば 駐車場代の負担が大きい地域では特に 喜ばれます 女性のお客様には「クルマも着替える」新生活として提案できます 

2 商品と販売のブレイクスルー

2.2 女性にとっても心地よいクルマ社会に

 クルマは長い間 商品も販売も男性のお客様を中心に考えられてきました そのため自動車の扱いについても あるいは自動車関連の言葉についても 女性にはまだまだ馴染みが薄いように見受けられます

クルマに限らず 商品購買への女性の影響度が高まり 女性向けマーケティングの研究も進みました 買物の楽しみ方や商品の選び方が男性とは全く違うことが分かってきました 

一方では 地域による違いも広がってきています それぞれの地域でそれぞれの店舗のスタッフが女性のお客様について肌感覚で感じられる仕組みが必要です

「女性専用おクルマ相談窓口」を全ての店舗に設けては如何でしょうか トヨタだけでなく他メイクも含め さらには軽自動車ユーザーにも門戸を広げるべきです いまやトヨタは唯一軽自動車を扱わないメーカーになりました 軽自動車のお客様との接点が限られ お客様ニーズの把握が十分とは言えません お客様を知る お客様を五感で感じとる接点として重要です おしゃれなカフェなど併設すれば更に親近感が増します

ニンテンドーDSなど携帯用ゲーム機や携帯用音楽プレヤーなどで 自動車の扱い方や自動車用語を気軽に学ぶことができるようなサービスも検討すべきです

2 商品と販売のブレイクスルー

2.3 セカンドライフを支援するクルマを         

 加齢により 動体視力の低下や視野の狭窄化で道路標識を見落とすことがあったり 瞬時の対応力も低下し 事故の危険性が高まります 

一方高齢化社会とはいえ アクティブシニアと呼ばれる人達がセカンドライフの自由な時間のなかで見知らぬ土地をドライブする というようなシーンが増えると思われます 普段走りなれた土地であれば どこのカーブが危ないとか 子供の飛び出しが多い場所とか 土地勘ならず道路勘なるものがありますが 見知らぬ土地 走りなれない道路では危険度が増します

 危険予知機能は高齢化社会には必須の機能になると思われます 走行中 道路標識情報や交通事故多発場所を伝えるだけでなく 台風接近や通行止めなど緊急情報を流す仕組みも重要性を増します 

カーナビの画面表示や音声ガイドが考えられますが

運転者によって伝達情報を変える必要がありますので カーナビの個人設定機能が重要になります

 日本は先進国の中で最も急激な高齢化を迎えます

日本における高齢化対応技術は先進各国だけでなく世界の人々にそのノウハウを横展することができます

この危険予知機能はクルマ社会に馴染んでない女性ドライバーにも喜ばれるのではないでしょうか 

3 営業の業務革新

3.1 お客様を知る 変化の予兆をつかむ仕組み

購買決定のプロセスが複雑になってきております

モータリゼーションの始まりの頃は お父さんが ほとんど独断で決めて買っていましたが 近年は全く違っています たとえお父さんの顧客満足度が高くても お母さんの満足度が極めて低く「大嫌い」と思っている場合 逆に他の商品を決定的に「大好き」と感じている場合 CSと購買は繋がらないことになります 主運転者へのアンケートという一つの断面だけではなく お客様の回りの人々も含め 購買にいたるプロセスを立体的に把握する必要があります

2003年に CS調査の自由意見を精読しました 約2000件です 読み込むうち奇妙なことに気がつきました そこに書かれているお客様のお名前と内容が一致しないのです お名前はご主人でも お書きになっているのは奥様であったり お爺ちゃんやお婆ちゃんであったりするのです 筆跡や書かれている内容から推察できました そこで もう一度全件見直して分類したら なんと40%が本人ではなかったのです

市場調査のアンケート項目は いまや数十項目にわたっている場合さえあります 全ての項目にきちんと答えられているとはとても考えられません 調査員によるなりすましも有るそうです 市場調査のあり方を根本的に見直す必要性に迫られています

 

お客様を知るための情報源としては 市場調査と販売第一線の販売店さんに聞くこととの二つでしたが

これらを補完するための手法が必要となりました

インターネットの発展による様々な媒体の出現により お客様を観察することが可能になりました  

お客様の購買行動 使用行動を知る

お客様の本音に耳を傾ける

お客様の隠れたニーズを感じ取る

など従来の手法とは別の 新たな仕組みが可能です

販売における現地現物主義は お客様の気持ちや行動全般を踏まえる必要があります

売店舗の現場だけでなく ウェブサイトや媒体などお客様との全ての顧客接点 さらにお客様が実際にクルマを使う使用プロセスや クルマをご購入になるまでの購買プロセス すべてを把握する必要があります

そこではじめて お客様の新たなニーズや市場変化の予兆を知ることができるのではないでしょうか

3 営業の業務革新

3.2 カイゼンマーケティング

カイゼンマーケティングとは 現地現物主義(お客様の気持ちや行動全て)を踏まえ PDCAのカイゼンサイクルを回し 商品や販売を改善することです 

営業の仕事での新たな仕組みづくりの提案です

国内営業部門に在りまして かねてより若い人達の企画能力不足を痛感していました ほとんどの企画が広告代理店やシンクタンクに依存しているからです 営業施策を客観的に評価できる仕組みをつくり 業務の見える化を実現できないものかと模索を続けてまいりました 営業の仕事は 開発や製造と違って 客観的な業務評価が困難でしたが 技術の発展によりそれが可能となるのではないかと考えました 

2002年に中川 理氏他の論文「顧客ロックイン戦略」に出会いました 全ての営業施策はお客様との結びつきを強めることにある ということが示されていました 営業施策の評価が一つの尺度で行えることを意味しています 施策がお客さまにどう届いたか お客様の気持ちがどのように変化し 更にはお客様の行動にどんな変化を及ぼしたか を調べることで 効果評価ができるのではないかと考えるに到りました

2004年には 宋文洲さんの「やっぱり変だよ日本の営業」で 日本の営業は人情と根性ばかりに頼っていて 本来業務がおろそかになっていることを再認識しました カイゼンマーケティングトヨタだけでなく日本の産業力向上に貢献できることになります 

それ以来 自動車以外の他業界の方々とも連携をとり新たな仕組みづくりを研究してきました 「日本オリジナルのマーケティングを創ろう」という志で 多くの方々に手弁当でご協力をいただいて参りました

2006年になり 実現性が見えてまいりました

日本語解析技術の急速な進歩とお客様評価の手法が整ってきたことです

営業施策の評価はお客様の「行動喚起の要因」を特定することからはじめます 物を買う場合には必ず お客様が能動的に行動を起こす瞬間があります ウェブサイトにアクセスしたり カタログを取り寄せたり 販売店に足を運んだり 営業スタッフに連絡を取ったり という事です このような行動を喚起させた施策こそが まずは評価されるべきと考えております

一方 お客様の行動や気持ちを把握するには従来型の調査では十分でないことが分かってきています 

最新の脳科学によれば 人間というのは記憶を後から都合のいいように勝手に形づくってしまうそうです そうなりますと リアルタイム調査 あるいは 日記のようなお客様の記録を蓄積しておくというような方法が必要です お客様の本音に近づくにはアンケートより自由記述方式のほうが優れていることも分かってきています

意思決定の材料にするには多くのお客様データが必要になります 記述データを解読するには大変な労力を要しますので 全てを人間の手で行うことは現実的でありません 日本語を処理する技術が必要です

さいわい ブログやSNSといった記述データを扱うことが増え その内容を分析する技術(日本語解析技術)が長足の進歩を遂げています それでカイゼンマーケティングの実現可能性が見えてまいりました

 医療の世界では傷病治療だけでなく定期検診も重要です 営業の仕事の評価も 個々の施策評価だけではなく 総体としてのお客様評価も大切です 従来からCSとか好感度調査とかお客様評価指標がありますが 営業スタッフ サービススタッフ 店長 店舗 広告宣伝 ウエブサイト メールなど 全てのお客様接点について共通の評価指標があれば相対比較も可能です メーカーだけでなく販売店さんも含めた営業関係費用の最適配分のための指標になりえます

お客様評価について新たな取り組みが生まれてきております CSのありかたについても様々な学術研究や実証結果が出てきております 新たなお客様評価指標を検討すべき段階に入りました

評価は ユーザーとしてのお客様のほかに 販売店さん 特に販売現場の皆様 営業スタッフ サービスエンジニアの方々もお客様と位置付ける必要があります トヨタの営業施策が現場に届いているか どう受け止められ どう使われているかを把握する必要があるからです

永年あたためて参りましたテーマに ようやく実現の見通しが立ちました

 

他業界の皆さまからも貴重なご提案を数多くいただいております 集大成の段階にきました 

これまでの成果を生かし 研究から実践展開への本格的な取り組みに入るべき時と存じます

・お客様を知る 変化の予兆をつかむ仕組みづくり

・お客様観察に基づく営業施策評価の仕組みづくり

推進のための組織と体制を拵えていただき 

このテーマに邁進させていただきたく存じます

是非とも よろしくお願い申し上げます

  以上