”Magokoro(まごころ)”

一 柿渋ばあちゃん
 
 
これは梅原真さんからお聞きしたおはなしです。
秩父の山奥のおばあちゃん(作り手)がつくった柿渋石鹸。そして梅原真さん(介添え)がお年寄りの女性(買い手)そして彼女とその旦那様(使い手)の絆をつくりました。そして皆さんが喜びました。わたくしはこれを日本人らしい産業だ!と感じました。
 
 秩父の山奥のおばあちゃんは幼い時分、貧しかったのでおやつを買ってもらえませんでした。学校から戻ってお腹がすいているときは柿ノ木になっている柿をもいでおやつにしていました。柿のならない季節には干し柿が有りました。
日本全体が豊かになるにつれおばあちゃんの生活も何不自由ない便利なものになりました。しかしおばあちゃん、ある日柿ノ木の柿が誰にももぎられずに地面に落ちているのを見つけました。そして悲しくなりました。幼い日々に助けてくれた柿の木がかわいそうでした。忘れていた柿ノ木ですが小さい時分の頃を思い出し感謝の気持ちが湧いてきました。
なんとかして柿ノ木にかんしゃの気持ちを表したい。落っこちている柿ノ木をいかしたいとそう思い様々な活用法を調べました。その結果、柿渋が加齢臭を除くのに効き目があることを知りました。柿は昔から殺菌作用などで重宝され多くの商品を生んでいました。
おばあちゃんは仲間といっしょに石鹸、柿渋石鹸をつくりました。ところがさっぱり売れません。そこへ登場したのが梅原真さんです。「加齢臭に効く柿渋石鹸」と書かれている商品は買いにくいと感じたようです。加齢臭に効くことは知れ渡ってきましたから「男の石鹸」と名づけました。パッケージデザインもオトコくささを感じるいかつい模様いかつい文字にしました。そうしましたら爆発的に売れるようになったそうです。
 
もうひとつ新聞バッグのおはなし。四万十川には季節になると鮎をめざして釣り人がたくさん訪れます。その人たちがお弁当やら飲み物やら買物をします。その包み紙、昔は神でしたが最近はポリ袋いわゆるレジ袋です。それが風に舞って川面に飛ばされます。そうすると大切な川のいきものが困ります。おばちゃん達が考えました。昔のように古新聞にしようと。でも買っていく人たちは、田舎くさい、とばかにします。またまた考えました。
袋にしてみました。しかし何とも体裁が良くない。デパートの紙袋、取ってのついた洒落た形のあれ、です。でもよれた古新聞ではシャンとしません。いろいろ試した中で折り紙の得意なおばちゃんがかくれわざを使いました。出来上がりました。これをみんなで新聞バッグと名づけ他の地域にも広めようとしました。世はエコブームだからです。しかし数年かかって努力しても分かってもらえません。ところが驚くことにヨーロッパのある国から注文がありました。「古新聞を送るから新聞バッグにして送り返してくれないか。相応の費用は払う。往復の航空便も手配する」というものでした。オイシイ話です!
ところが丁重にお断りしました。エコだからです。おばちゃんのこころいきに拍手です。
 このおはなしに日本ならでは、日本人だからこそという要素が沢山あります。
 
(1)  物にも心を感じる、生きとし生けるものを大切にする
 
   創造力を発揮するにいたる動機が、物への感謝であったり生き物を大切にする気持ちであったりします。これは日本人ならではないでしょうか。
   「柿ノ木をかわいそう」と感じたり「柿ノ木に感謝する」「柿ノ木を活かす」
   新聞バッグも「川の生き物が困る」と感じることがはじまりになりました。
環境という言葉はいつからか、環境問題というような使われ方になりました。
   「もったいない」とか「かわいそう」�といった気持ちで周りにある生きとし生けるもの、動物で�あれ植物であれ、をあまねく大切に思う気持ち。これは人類の生存があぶないから環境を守る、という環境問題発想とは少しニュアンスが違うと感じます。
 
(2)  一緒に考えてやってみる
 
   石鹸はおばあちゃん仲間、新聞バッグはおばちゃん同志で工夫し作ってみました。
   エマミュエル・トッドの人口分析学による分類では日本人は家族主義では有りません。家族も大切ですが地域の仲間を重んじて、助け合いをする行動が身についています。折り紙のワザを買物袋に応用するのもユニークです。
 
(3)  心意気
 
新聞バッグ、海外からの引き合い、多分お金儲け的にはオイシイ話だったでしょう。
しかし本来の目的エコから考えて「おことわり」。トランジスタラジオをアメリカに売りに行ったソニー盛田昭夫がブローバ社に10万台のオファーにも関わらず、OEM(相手先ブランド)を「おことわり」した心意気に通じます。
お金より心を大切にする日本人の気高い気風ではないでしょうか。
 
(4)  海外から来るものは良いものという発想
 
   これは後�日談ですが、新聞バッグ。海外からの反響が相次ぎ、そのため国内でも盛り上がりを見せ始めたそうです。航空会社グループがファーストクラスの古新聞を集めてお洒落な買物バッグをこしらえようという動きが起こってきているそうです。大陸の米文化の到来にはじまり、中国・韓国文化そしてヨーロッパ文化と、
   日本人は舶来ものを重く受け止め、しかしきちんと咀嚼して内在させました。